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【HearToプロジェクト】#21 第2章「新」サステナブルフードとしてのコオロギ|昆虫食を日常に

更新日:2022年12月23日

前章では葦苅さん御自身の歴史や株式会社エコロギーについて述べてきた。そんな葦苅さんは普通の人にとっては食べるにはなかなか手の及ばぬ生き物である「コオロギ」という虫をどう捉えているのか、深掘りしていく。今はまだ読者の皆様方はコオロギを食べるなんて有り得ないと思っているかもしれないが、本章を読み終わったころにはいつの間にかお腹が空いてコオロギを食べたくなってしまうだろう。かくいう筆者も葦苅さんのお話を聞いてコオロギに対して食欲を抱くようになってしまった一員である。



【昆虫食を我々の生活に溶け込ませるための奮闘】

日本人あるいは都心に住む人はそもそも「虫」という生き物を食べることに抵抗があるのではなかろうか。葦苅さんはどのようにしてその障壁を取り除こうとしているのかを解き明かしていく。


ーー日本の若者に食用コオロギを浸透させるために、どのような工夫をされているのですか?


「今の日本における昆虫食は確かに少しずつネットニュースやツイッターで話題になっていると思います。ただ、現状の昆虫食はどうしてもいわゆるゲテモノ食であったり、エンタメ食として広がっています。具体的にはテレビでアイドルが食べる罰ゲームの手段というイメージが強いんですよね。なので、私たちのマーケティング手段としてはそもそも昆虫食ってあまり言わないです」

「今共同開発をしております食品メーカーさんとかと一緒に話して、新しいサステナブルフードですよとかこういった社会参加を促すような新しい食品原料ですよっていうところを前面に押し出しています。その中で例えばCO2の削減とか、ある社会課題に対して実際どのぐらい原料を使うことによって、社会が変わるのかを、私たち原料メーカーなりにすごく丁寧に数値化して、皆さんにお届けする。そういった取り組みを元に色々広げるような手段や取り組みを現在調整中です」


ー-では昆虫食を日本において日常に溶け込ませるためにはどんな工夫が必要だと考えているのですか?


「大きく2つあります」


「今の昆虫食が、どうしてもゲテモノ食なので、私たちは新しくそこをサステナブルフードとして、啓蒙活動をしていくという局面にあると思っています。社会そして人間社会にとってサステナブルな新しい社会参画を促す、そして、社会的な価値を内在させている原料だというアプローチをしていくというところが一つです」


「もうひとつは大学とコオロギを食べてどういった効能があるのかという研究をしており、コオロギを食べることによってどういった健康的価値やメリットがあるのかというところを正しく発信することに取り組んでいます」







【コオロギの世界へようこそ】

虫だけにこれまで多くの人に無視されてきてしまっている「コオロギ」という新たな資源。この説を読めばあなたもコオロギの沼にどっぷり浸かる事だろう。


ー-環境負荷が低い生物由来の食糧資源というものを先程たくさん話して頂きました。そこでなぜコオロギという虫を選んだのですか?


「たしかに生物由来の食料資源(未利用資源)というのはたくさんあります。ただ、その中でコオロギを選んだのは簡単に言うと本当にいつでもどこでもだれでも生産が可能な食糧資源の一つだと思ったからです。具体的に言うと、本当に少ない初期投資で場所を選ばず、広い土地も必要とせずに、生産が可能な資源です」


「他の食料資源、例えば微細藻類も現在注目されていると思うんですけど、じゃあ微細藻類を明日から生産しようとなると結構難しくて、専用のプラントが必要なのですが、私のテーマは初期投資少なく狭い土地でできるかどうかで取り組んでいたので、コオロギが面白いなと思いまして選んだという背景があります」


ー-大学生時代にコオロギを自宅で買っていたという話ですが、その時にコオロギを飼育しようと思った理由を教えてください。


「東京の自分の家でできるのか、明日できるのかという限られた環境でやるということが自分のテーマだったんですね。僕はブロイラー(ブロイラー(英語: broiler)は、肉鶏の一品種。 食肉専用・大量飼育用の雑種鶏の総称)が大好きで、人類が作った最高の生物食料資源の一つだと思ってますけど、鶏を東京で飼うのは難しいなーと思ったんですよ。もう一つ植物由来のタンパク質として大豆もあると思いますが、大豆も土地の開墾が必要ですよね」


「そう考えた時に自分の家でできるコオロギって面白いんじゃないかなと思いまして。結果、できたんですよ。狭いワンルームのマンションですよ。そこである程度飼育の自由度が高く、簡単に生産ができるってこれは面白いなと思ったわけです。なので、明日にでもいつでも誰でもできる生物由来の食糧資源というところでコオロギを飼育することにしました」


ー-ところでコオロギを飼っているときに、このコオロギ食べたいなと思うことはありましたか?


「そうですね。私はすごく思いました。コオロギは確かに見た目は虫の形をして気持ち悪いかもしれないですけども、私はこれも栄養素の塊、アミノ酸の集合体みたいな感じで見ていたので、このコオロギ餌を変えたら含まれるアミノ酸変わって面白いんじゃないかなと思っていたなど、完全に食べ物としてみてました。本当に栄養素として。なので食べたいっていうある意味ちょっと研究欲や好奇心の対象として見ていました」


ー-初めて昆虫を口にした時の感想だったりとか、味について教えて下さい。


「まず意外と美味しいじゃんっていうところの感覚で、やっぱり期待値のコントロールって大事なんですよね。皆さんもそうだと思いますけど、昆虫ってどうせまずい、気持ち悪いでしょうっていう期待値がやっぱりあるんで、その壁を容易に超えてくれる感じがあって、結構ポジティブな感じでした。食べた時の感想としてはうまみを感じるような、これは食品だなとすごく直感的に感じたことはすごく覚えております」


「栄養成分的にもエビとかカニにすごく似ているので、結構動物寄りですごくうまみがありました」




【「コオロギ」の養殖】

有史以来ヒトは自らの食を「生産」することで安定化や効率化を図っていたと言えよう。今我々は新たなる食料として「コオロギ」に着目している。その「コオロギ」の生産にかかる苦労や取り組みを見ていこう。


ー-現在カンボジアで生産を行っているとのことでしたが、現地生産あるいは現地消費を実現するために今後カンボジアでの販売だったり日本での生産等の計画はありますか。


「現地消費は今もやっています」


「ただ一つ難しいところがあって、カンボジア、コオロギ売れるんですよ。コオロギ食べるんですよ。ただ私達が理想とする形での普及がまだできていません。カンボジアの人たちって油でギトギトに揚げたコオロギとか食べるんですね、せっかく栄養素のいいコオロギを油でギトギトに揚げるんかい、っていうとこなんですけど(笑)コオロギに含まれている栄養素とか、そもそもタンパク質っていう概念を知らないので、昔からいわゆる珍味みたいな感じで食べてるんですね」


「カンボジアにおいてコオロギが「栄養機能食品」として普及するということには、実は今、結構壁を感じています。なので私たちはきちんとコオロギの栄養素の啓蒙活動をやらないといけないっていうところで」


「正直まだビジネスにはなってないんですけど、例えば妊婦さんの栄養改善するためのコオロギのワークショップを現地の病院で開催するとか、あの本田圭佑さんがサッカーのカンボジア代表監督をやっているので、カンボジアのサッカー代表選手団の皆さんに私たちのコオロギ食べてもらったりしています。結構そういう草の根的な活動をまず小さくやったりしていて、そこからひとつ何か種になるようなビジネスが見つかったらいいなと思っています」


「日本での生産はですね、これもまだ現時点では全然形になっていなくて。

やれたらいいなと思ったりするのですが、懸念としては、日本の気候環境がコオロギの生育にあんまり適してないんですよね。簡単に言うと寒い時にはコオロギ育たないので、じゃあそれをどうするかという問題があります。暖房というエネルギーを使ってコオロギを作るって馬鹿らしいと考えています」


「私たちのアプローチとしては、日本は排熱が結構たくさんあるので、温泉熱とか工場排熱とかそういったものをうまく活用してコオロギ育てる、そういった取り組みは面白いなと思っていますけれど、まだ正直全然形にはできてないですね」


ー-コオロギの活用において食用以外で今現在新たに考えられている形や取り組みはありますか。


「ペットフードやニワトリの餌や水産養殖の餌の原料として、コオロギを活用していきたいと考えています。例えば、タンパク質の観点で言うと、水産養殖はこれから極めて重要になっていくと考えています。簡単に言うと、日本人以外がものすごくたくさん魚を食べるようになってきました。従って、海の資源としての魚は今絶対に足りていないんですよ。そうなると養殖をやらないといけないのですが、養殖は構造的に不可解な点があります」


「皆さんもマグロやブリ、タイ等が好きだと思いますが、そういった付加価値の高い養殖業を生産するにあたって、餌が必要ですよね。その餌は、魚粉というんですけど、この魚粉って魚由来なんです。海の小魚をとってきて、それを粉末化したものをタイとかに与えて、育てるというのが、現在の水産養殖の構造です。簡単にいうと、魚で魚を育てるという構造になっているので、はっきり言って、持続可能じゃないんです」


「なので、やっぱり新しい餌の原料開発が必要と言うところで、こういったコオロギを活用した水産養殖の魚で魚を育てるという従来の常識を壊すような取り組みをやれたらいいなと思っています


ー-コロナ前後のお話をお伺いしたいのですが、コロナ前はカンボジアで過ごしていたそうですが 、コロナ禍で現時点ではどのように活動されているのか教えていただけますでしょうか。


「現時点(2022年6月)のカンボジアはコロナの影響がなくて、僕がカンボジアにいる時ってもマスクとかしてないんですよ。なので、経済自体は普通に動いています」


「2020年、2021年は結構苦しかったです。日本とは違って、カンボジアにはロックダウンがあって、それがいきなり始まるんですよね。中国と似ていて、例えばアパートで感染者が出たらそのアパートごと封鎖されるんです。僕の住んでいるアパートも当時感染者が出たために封鎖されて、合計19日一歩も外に出れないこともありました」


「首都はプノンペンというのですが、農家さんのいる地域は都心部ではなく農村部なので、そこの行き来ができないというのはすごく壁にぶち当たりました」


「農家さんはコオロギを作ることを止められないので、いかにそのコオロギを買い取るか。物流作戦とかですね。そして、いざ都心部に持ってきたのはいいものの、コロナ禍によって国際物流が不安定だったりと2021年は物流に苦戦しました。なんとかカンボジアが復帰したので今はおおよそコロナ前と同じようにできています」




本章ではコオロギの強みや生産に係る苦悩などコオロギに焦点を当てて、多くの方にとって未だ馴染みがなかろう「コオロギの魅力」を紹介してきた。1人でも多くの方が葦苅さんの思いを汲み取り、コオロギという「食材」に注目して頂ければ幸いである。

次章ではそんな葦苅さんが我々のような大学生へのメッセージや「サステナブル食品」としての昆虫食についてのお話を紹介していく。次章も極めて興味深い内容がふんだんにあるので是非このままご覧頂きたい。



 

【インタビュイー:葦苅晟矢さん】


海外を拠点として食用コオロギを利用した持続可能な食料生産を行う、株式会社エコロギーの代表として活躍中。フードロスを活用してコオロギを育て、ヒトに限らない全ての生命の健やかな生活をサポートする。


株式会社エコロギーHP:https://ecologgie.com/


葦苅晟矢さんtwitter:@ashikari_seiya




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