「ゾウ乗りをやめた都市、チェンマイ」
(15期 タイエレST、SPC 小池遼)
スタディーツアーの最後にやってきたのは、北部に位置するタイ第二の都市、チェンマイ。中世の王国の遺跡が数多く残り、「北方のバラ」と称されている。目につくのはヨーロッパからの観光客の多さ。バックパッカーから旅行中の家族まで、様々な格好の旅人が街を闊歩する通りには、英語やフランス語が飛び交っていた。
北方のバラ、チェンマイ
そんな街のゾウ観光にはある変化が起きている。この街では、アユタヤやスリンなどと違いほとんどのゾウ乗りが廃止されたのだ。
その理由はまさに私たちのテーマでもあった「動物愛護」。ヨーロッパからの観光客を大量に受け入れてきたこの街には、ゾウに乗るなんてかわいそうという非難が溢れてきた。この地のゾウ観光の形を変え、ゾウに乗るかわりに、サンクチュアリというほぼ野生に近い形でゾウを飼育する施設がつくられた。そこでは、そこに棲むゾウに餌をあげたり、一緒に山道を散歩したり、川でゾウの体を洗ったりといったアクティビティが体験できた。
私たちも丸一日サンクチュアリを満喫すると、メンバーからもこれがゾウと人間の最適な関わり方だと思うという意見が聞かれた。実際、鎖も繋がれていないゾウたちはこれまで見てきたゾウたちよりも悠々と、「らしく」生きているように見えた。
サンクチュアリのエレファントツアー
しかし、次に赴いたゾウの病院でそのイメージは早速揺らぐことになった。そこで出会った医療スタッフの女性は、私たちにサンクチュアリがいかに危険なものかを力説した。ゾウ同士で喧嘩をし、重篤な怪我を負う可能性があること。ゾウが人間を殺傷する可能性があること。実際にそれらのような事件はたくさん起きているが表沙汰になってはいないということ。
一部信ぴょう性が怪しい話もあるかもしれないが、タイで最も古いゾウの病院に勤務するスタッフがいうのなら、そういう側面はあるのかもしれない。サンクチュアリにいた時には微塵も思わなかったが、確かに、隣を歩くゾウの鼻が鞭のようにしなって私を打っていたら、川の中で体ごと私に倒れてきていたら、私はここに立っていないかもしれない。ゾウにとって、サンクチュアリは理想的なのかもしれない、ただ、人間にとっては必ずしもそうはいかない。
ではなぜ、チェンマイではサンクチュアリが広まっているのか。あの病院の女性に聞くと、やはり、西欧の観光客の声が力を持っているからと答えた。100%その理由ではないかもしれない。でもこの複雑な問題に対して無理矢理でも解を「出させる」力を、観光客が持っているということを実感した。
[5/5]へ続く
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