「旅人として。」
(16期 タイエレST、林賢真)
象の背中に乗ったり、象に芸をさせたりするアトラクションは、多くの観光客を魅了する。一方で、主に欧米ではこれを象への虐待として批判の対象となっている。
現地の人々の間でも象の利用方法に関する意見は大きく分かれていた。ある人々は、象を使った観光を痛みを伴わないものであり、むしろ象の健康を保つための一つの手段として捉えていた。彼らにとって、象は家族の一員であり、観光を通じて生活を支える重要な存在である。
一方で、その状況を変えようとする人々も存在した。彼らは、より自然に近い環境での象との適度なふれあい体験を観光として提供し、象が自然の中で生きることができることに努めている。しかし、そうやって設立されたサンクチュアリもまた、批判の対象となっている。象と人間との距離が過度に近くなると、安全面や象の管理に関する懸念が生まれる。全ての問題を解決できるわけではない。このように、象を取り巻く問題は単純な二元論で片付けられない複雑さを持っている。私たちはこのような複雑な問題に対して答えを出すことはできない。というより、安易にそんなことはしてはいけない。しかし、現地で見たこと聞いたことに対して、考えること、思考することは続けなくてはいけない。
私たちは旅人としてタイを訪れ、ゾウに乗りたいと思えば、その体験を予約し、お金を支払ってゾウに乗った。私たちがお金を払わず、ゾウ乗り体験を選ばないことを選択すれば、ゾウ乗り体験産業はいずれ続けていくことができなくなるかもしれない。その逆もまた同じだろう。問題は現地の人々だけのもののように見えて、実は旅人はひとつの産業の存続を担っている存在でもある。そのことを忘れないようにしなければならない。
旅人の役割は、見聞きしたことをただ受け入れるだけでなく、それを深く考え、自分自身の行動に反映させることである。そうすることで、旅の経験が私たちの人生に意味を持ち、また私たちの旅が他の何かに影響を与えることができるのではないだろうか。
旅人は消費者かもしれない。でも旅先を想い、思考する存在でなければならない。
【スタツア実録#1】2024春 タイエレファントスタディーツアー 完
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