“国内問題を自分事に”をコンセプトにしているあじさいプロジェクトでは国内問題について考える勉強会を月1ペースで開催している。4月は新入生にあじさいを知ってもらうため、異例だが、2回勉強会を行った。そんな今年度3回目となる勉強会のテーマは「ビニール袋の有料化と私たちの暮らし」であった。2020年7月から日本全国でビニール袋が有料になり、コンビニやスーパーで買い物をする際に、ビニール袋の有無を聞かれることが増えたのではないだろうか。
そもそもどうしてビニール袋を有料化する必要があるのだろうか。
●海洋プラスチック問題~その実態と原因~
ビニール袋有料化に大きく関わったのは海洋プラスチック問題である。
海に流出した海洋プラスチックごみは微生物などの海の分解者によって分解されない。これにより、海中にごみが残ったままになり、海が汚染されてしまう。プラスチックの原料であるPET(ポリエチレンテレフタレート)は合成高分子であり、人工物である。そのため自然界に存在する生物は分解ができないのだ。
プラスチックが海に流出する原因としては台風などの自然災害でごみが飛ばされ、海に流れ着く場合もあるが、消費者が適切にごみを捨てないためにプラスチックごみが海に流出してしまう場合もある。それはたとえ浜辺など海の近くにごみを捨てるという場合だけでなく、そこら辺の道路に捨てたとしてもそれが風に飛ばされ、雨に流され、海にたどり着く場合もありうる。
これらのプラスチックごみは海洋生物に大きな影響を与えている。ウミガメが誤って飲み込んだプラスチックごみはウミガメの胃の中で消化されないため、ずっと胃の中に残ってしまう。そのためにウミガメは満腹であると勘違いし、そのまま餓死してしまうという事例は少なくない。また、海洋生物だけでなく、人間の営みにも海洋プラスチック問題は影響を与えている。漁業では海の中のごみがひっかかって、網が壊れてしまったり、観光業では海の汚染によって観光客が減少したりする。このように我々の生活にも影響があることを知ると、海洋プラスチック問題について関心が持てるのではないだろうか。
●海洋プラスチック問題~実際の量~
現在では毎年、800万トンのプラスチックのごみが海に流出していると考えられており、海には1億トン以上ものプラスチックごみが存在していると言われている。800万トンは実際どのくらいの量なのか想像がつきにくいと思うが、世界最大のクジラであるシロナガスクジラの重さが1匹あたり150トンだとすると、約5万匹分の重さである。しかもプラスチックごみは分解されないため、2050年には海にあるプラスチックごみが海洋中の全生物量を上回ると考えられている。(※海洋中の全生物量は約8億トンと推定されている。)
そういう状況を回避するために、プラスチックごみを減らそうとする動きが世界中で起こっているのである。
●ビニール袋の有料化はプラスチックごみ削減に繋がっているか?
海洋プラスチックごみを減らす動きの一環として始まった、ビニール袋の有料化だが、実際その問題の解決につながっているのだろうか? 2020年11月時点でコンビニやスーパーでのビニール袋辞退率は71.9%となっており、多くの人がビニール袋を断っていることがうかがえる。政府は6割の辞退率を目標にしていたため、それを上回る状態である。
一方でごみ出しのために新しくビニール袋を買ってしまうといった声もあり、ビニール袋を有料化することによって、海洋プラスチック問題の解決につながっているかどうかと問われるとすこし疑問がわいてくる。
実際、政府もビニール袋の有料化が直接的な解決だとは考えていない。環境省はレジ袋の有料化が消費者にとって環境問題を考えるきっかけになってもらえればよいとしている。
では本当に消費者は環境問題を考えるようになったのだろうか?それらについて勉強会ではみんなで意見を出し合った。
ビニール袋の値段設定の問題や、ケーキなどの崩れやすい商品を入れる場合にはビニール袋をつけてほしいと頼む客が多くなり、ビニール袋を0にするのは難しいといった意見が挙がる中で、勉強会に参加した全員に共通した意見は、「ビニール袋を買わないという選択をすることが環境問題を解決することになっていると思い込んではいけない」ということだ。先ほども述べたようにビニール袋を有料化にしたのは環境問題について考えるきっかけになるようにするためであって、それが根本的な解決につながっているわけではない。
我々が個人でプラスチックごみを減らすために、他に何ができるだろうか。そこに対して出た意見がごみをきちんと分別するというものである。分別されたプラスチック製品やペットボトルはリサイクルされ、新たな製品に生まれ変わる。それはプラスチックごみを減らす一つの対策だと言える。個人レベルでごみの分別を気をつけていけば僅かであってもプラスチックごみを減らせるのではないかという意見である。
一方で、プラスチックごみを分別したとしても汚れがついている場合はリサイクルができない場合があるなど、リサイクル一つとっても徹底的な対策が求められ、それを多くの人が個人レベルでやるとは考えにくいという意見も挙げられた。それよりも、プラスチックごみを出さない製品を作る努力をしている企業のものを利用する、マイボトルが利用できる店に行くようにするなどの消費者が利用場所を選んでプラスチックごみを出さないように心がけるということも重要なのではないかという結論に至った。
これに関してさらに深堀りをすると、様々なプラスチックごみ削減に対しての取り組みを知るということはプラスチックごみに対して意識を高める第一歩ではないだろうかということに発展する。
その例をいくつか紹介したいと思う。自動車会社のスズキはスズキ・オーシャンプロジェクトと言って、水辺の清掃活動をしたり、製品・部品の梱包資材からプラスチックを削減したり、船外機に取り付け可能なマイクロプラスチック回収装置を開発し、海洋マイクロプラスチックを回収したりしている。
また、徳島県の上勝町は持続可能な循環型社会を目指して2020年までゼロウェイスト達成を目指して活動している。そしてごみを45分別することで再資源化を8割達成している。
このように、市や町単位で活動ができ、それが成功すればその仕組みが全国に広がることにつながる可能性もあると感じている。
何事に対しても対策を考える場合や、意識を向けるには正しい知識を得なければいけない。まずはプラスチックごみ問題を自分事としてとらえられるように、プラスチックごみ問題とは何かを知り、それに対してどのような対策が検討されているのかを知ることが大切ではないかという結論に至った。
あじさいはこれからも様々な国内問題についてその問題を“自分事”としてとらえていきたいと思う。
次回の勉強会は「東日本大震災から10年を考える」をテーマに東日本大震災について考える。
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