聞き手:曽根京香、峰島友梨
記事編集:阿部祐大
新型コロナウイルスによって、私たちの学生生活は大きな影響を受けた。
感染の収束が見通せず先行きが不透明な中で、将来に対する不安や焦燥感を募らせる学生は少なくないだろう。かく言う私たち自身も、そうした学生の一人だ。
だが、私たち自身もそんな不安や焦燥感に苛まれる当事者であるからこそできることがあるのではないか。そんな想いから、この企画では実際に社会の様々な分野で活躍する社会人の方々に『ターニングポイント』をテーマにインタビューを行い、重要な決断の瞬間や、当時の想い、葛藤に迫っていくことで、学生の自己実現を支えるヒントを探っていく。
今回お話を伺ったのは、一般社団法人ダンス教育振興連盟JDAC代表理事の久岡和也さん。
新卒でサントリーに入社したものの、とあるきっかけで全く接点のなかったダンスに出会い、在職中に一般社団法人ダンス教育振興連盟JDACを設立。現在はその代表理事として様々な分野で「ダンスで社会貢献」をモットーに活動をされている。
私たちは、久岡さんの掲げる『ダンスを通して社会に貢献する』というビジョンの独自性とそれを実際の活動で実現されている点に強く惹かれ、インタビューをご依頼した。
また、今回のインタビューでは、お話を伺いながら久岡さんのこれまでの人生を表すモチベーショングラフを作成した。
このグラフを見てもわかるように、久岡さんがJDACを設立するまでには、数多くの決断の瞬間があったのだろう。そんな久岡さんから、当時の想いや葛藤についてお聞きすることで、今後多くの決断をしていかなければならない私たち若者にとっての貴重な指標が得られるはずだ。
【優等生な自分と自由な自分】
――学生時代の久岡さんについて教えてください。
「昔から優等生に見られたい、長男なので長男らしくふるまわなくてはいけないっていう気持ちがありました。学芸会で主役をやったり、クラスでは学級委員に立候補したりしました。でも本当は、もっと自由にしたいという気持ちもあって、葛藤していました。なので、やんちゃをすることもあるかと思えば、ちゃんと勉強も真面目にしてたという二面性がありました」
「大学進学の時は、将来社長になりたいと考えていたので本当は商学部に入りたいと思っていました。だけど高校の成績が良かったので、親にせっかく成績が良いなら、僕が志望していた大学の中で一番優秀だと言われていた法学部にしなさいと言われたんです。かなり悩みましたが結局親の意見を受け入れて、法学部に進学しました。でもやっぱりそういう形で入っているので、勉強に全然興味が出ませんでした。」
優等生にみられたい、けれど自由奔放でもありたい。
そんな久岡さんが初めてこの葛藤から抜け出したのは、大学時代だった。
「勉強よりもバイトとサークル活動に力を入れていました。真面目に練習をしオフも楽しい野球サークルに入っていましたが、どこか物足りなさを感じていました。時期的には就活を始めないといけないくらいだったんですけど、どうしても自分のやりたいことを実現したかったので、大学3年生の時にサークルを立ち上げました。就職氷河期だったんですけどね(笑)葛藤がずっとあった中で、ここが初めて自由にやりたいという気持ちが勝った瞬間でした」
<大学3年時に立ち上げた野球サークルのメンバーと久岡さん(下段中央)>
【「もっと本音でぶつかろう」自分の気持ちに正直になること】
ついに葛藤から抜け出し、立ち上げたサークルで充実した日々を送っていた久岡さん。しかし、波に乗っていたサークル活動とは裏腹に、就職活動は想像以上に厳しいものだった。その中で自分の気持ちに正直になることの大切さに気づいたという。
「僕は、就活を始めるのはかなり遅かったです。理由は二つあって、まず一つ目はこのまま普通にサラリーマンになるのか、それともいっそのこと起業するのか迷っていたんです。二つ目は、自分が立ち上げたサークルがうまくいっていたということもあってなんとなく大丈夫だろうと安易に考えていたんですよ。そして、そのまま就活を始めたら見事に惨敗してしまいました。」
「あまりにも連敗が続くので、そこで自分を見つめ直す時間をたくさんとったんですよね。そして、今までの自分の面接の受け答えをもう一回見返してみたときに、自分の受け答えが他人には響かないなってことに気がついたんですよ。そこをもっと本音でぶつかろうっていうのに切り替えたんですよね」
「面接官が喜びそうな言葉を並べるのと、自分の気持ちに正直になりたいっていう葛藤で、自分の意思が勝った瞬間でした。そうしたら、その後の就活はすごくうまくいって。やっぱり自分の思ったことを言って、ぶつかった方がいいんだなっていうのを改めて感じました。」
サークル設立や就活での経験は、周りの目や意見にとらわれず自分の本当の気持ちに正直になり、「自由」に活動するきっかけとなったように思える。これは現在の久岡さんの活動の根幹になっているだろう。
【新卒で入社してからも持ち続けた起業への思い】
その後、新卒でサントリーに入社した久岡さん。大学進学前からずっと起業をしたいと思い続けていたが、その思いはサントリーに入社してからも変わらなかったのだろうか。
「就職してからも起業をしたいという気持ちはずっと持っていました。サントリーという大きな会社に入れたので、自分が起業する時のために“組織とはどういうものか”、”会社はどのように成り立っているのか”といったことをとにかく吸収しよう、学ぼうと思っていました」
「ただ、社会人になると当然壁にぶつかるので、モチベーションはズドンと落ちました。入社した時も、就活の時と同じで自分ならできるだろうと思っていたんですが、結果が出なかったんですよ。だけど救ってくれる先輩がいて、その先輩たちに『もっと人を頼れよ』とか『1年目なんだからできなくても大丈夫だよ』とか教えていただきました。それで周りの力を借りることをすごく覚えました」
「10年くらいサントリーにいて、周りの力を借りることを覚えた2年目以降はすごく結果が出たんですよね。だから楽しいし充実してました。だけどこれでいいのかなって考えたときに、やっぱり僕がやりたいのは起業だなってここで改めて気づいたんです。」
【きっかけは高校生?ダンスとの出会いが人生を変えた】
サントリーでの仕事に充実感を感じつつも、心の奥には『自分の本当にやりたいことは起業』という思いを抱えていた久岡さん。そんな久岡さんの運命を変えたのが、突然訪れたダンスとの出会いだったと言う。
「ある日たまたま、イベント会社に勤めている知り合いの方から、『高校生のダンスの大会をやるから見においで』と連絡をいただいて、その大会を見にいくことにしたんです。ただ正直その大会に行くまでは、ダンスのこともよく知らないし、高校生たちがチャラチャラやっているんだろうと勝手に思っていたんです」
「でも実際に大会に行ってみると、緊張感を持って、時には涙を流しながらも、真剣にダンスに取り組んでいる高校生たちの姿があり、ものすごく衝撃を受けました。その姿が野球に打ち込んでいた学生時代の自分と重なって、一気にダンスに興味が湧いたんです」
サントリーに入社してから10年間働きながらも、起業への思いを持ち続けていた久岡さん。そんな久岡さんが自身とは全く接点のなかったダンスと出会ってからどのような道を歩んでいったのか。
続きは次回の記事で!
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【インタビュイー:久岡和也さん】
大学卒業後、サントリー食品インターナショナル株式会社に入社。サントリー在職中にダンスに出会い、起業をしたいという強い思いから一般社団法人ダンス教育振興連盟JDACを立ち上げる。その後、同団体の活動の幅を広げ、現在は「教育」や「介護」など様々な分野で「ダンスを通じた社会貢献」に取り組んでいる。
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