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執筆者の写真S.A.L. 広報局

【スタツア実録 #2】2024春 タイエレファントスタディーツアー 

更新日:9月21日

「スタディーツアー始動。ゾウ観光産業の輪郭を描く。」

(15期 タイエレST、PC 森脇千莉)


1月ごろから始動したタイスタディーツアーでは、まずタイのゾウ産業についてさらにたくさん調べ、専門家の方たちにお話を伺った。


スリン県のゾウの村に2005年から関わっており、三年間住み込みで人とゾウの関係について文化人類学的な長期調査も行った大石さんによれば、スリンのゾウのほとんどは村で生まれ育っていて、野生であったことはないとのことだった。飼育ゾウの生活を守るためにはいかに訓練して野生化するのかということよりも、この状況下で人とゾウがいかによりよく生きることができるのかを考える必要があるという。


広島大学大学院国際協力研究科博士課程後期

大石友子さん


また、飼育ゾウへの象使いからの虐待については、何をゾウへの虐待だと判断するのか、その基準の曖昧さが存在していることを指摘された。例えば、私が以前見た観光客を乗せて背骨が変形したゾウの記事。この記事はタイ国内でもSNSで拡散されたそうだが、原因が観光客を乗せたことではなく、生まれつきの骨の異常もしくは何らかの疾患の可能性が高いという見解がタイ象保護センターを含めたタイの象を専門とした各地の病院から出たそうだ。「私たちが、”象が虐待されているに違いない”という前提に立ってしまうと、本来は虐待とは全く関係ない現象も、虐待として見えてしまうことがある」という。


象使いとゾウが関わる上で、彼らはゾウに指示を出す道具である鉤爪のついた木の棒を持ち歩いていることがある。実際には棒を持っているだけでほとんど使わず、叩くとしてもゾウや観光客に危険が生じる可能性のあるときだけ、傷の治りやすい脳に影響の出ない額の部分を選んでいるというお話だった。さらに、タイにおける動物福祉の観点で言えば、法律に基づき、ゾウを含めた動物の飼育環境の基準を規定する動きが出ており、今後基準を満たしていない施設には罰則が課せられる可能性もあるということだった。


一方で、アユタヤやチェンマイといった観光都市では、ゾウ乗り体験が虐待であるという批判を受けてゾウ乗り体験を廃止し、ふれあい体験に切り替えた施設も存在するということを知った。アユタヤのゾウ施設に通い続ける方は、「20年間ゾウと関わる中で、年間で3、4人の象使いさんがゾウによって亡くなるのをみてきている。象使いさんも道具一つでゾウと関わるので、ゾウが象使いさんに対して本当に心を開いていて、信頼関係がなければやっていけない。」とおっしゃっていた。ただ、棒を使った叩き方や叩く理由に問題を感じることはあるので、もちろんむやみに叩かないことは大事だという。


続けて、「毎日一緒に暮らしてきた象使いさんはゾウにとって家族みたいな存在で、ゾウを守るというよりは、ゾウを使って観光産業を提供しているところでの象使いさんがゾウとの信頼関係を築くことができているかというところがポイントになる。データや資料、映像などから現場を推察して理想を語る偏った正義により、リアルを置き去りにしてしまう動物愛護は危険である。切り抜きの報道など、点の視点で見ると悪いところだけみてしまうけれど、線で見てみて第三者としてどのように思うかというのが重要。観光客のおかげで象も嬉しくて幸せである様子を肌で感じてきた。必ずしも象使いさんや観光客に搾取されているわけではない。」ということだった。


吉本興業のタイ住みます芸人としてバンコクで活動し、象使いの免許やゾウセラピーの資格を取得しているあっぱれコイズミさんは、時に死にいたるほどのリスクがある中で、ゾウと関わる象使いという仕事を続けているのが、今いる象使いであるとおっしゃっていた。棒については、お互いの関係性を守るためにも必要なものであるという。そして、コロナ禍のこともお話ししてくださった。コロナ禍になり、タイも例外なくロックダウンが行われ、ゾウ観光産業にも計り知れない大打撃を与えたそうだ。しかし、そんな中でも、伝統を受け継ぎつつ新しいことに挑戦する人たちがいたことを教えていただいた。英語や日本語を話してTikTokで動画投稿やライブ配信をしたり、Youtubeをはじめたり。現代の技術を使った生き残り戦略で、何万人もの登録者を抱えている象使いも出てきているという。


タイ住みます芸人

あっぱれコイズミさん


このような方々の話を聞いて、段々とゾウとゾウ産業を取り巻く輪郭が見えてきた気がした。それは、端的に言えばゾウと象使いは、お互いがいなければ生きていけないということ。一度、人間の支配下に置かれた動物は野生動物としての生活に戻ることは不可能である。だからこそ、いかに人間社会の中でゾウがより良く生きることができるかを考える必要がある。一概にタイの人々を非難するだけではなく、ゾウと人間が共生する道を探すことが重要なのだと考えるようになった。


お話を伺う中で、記事を見て実情を知った気になっていた自分の認識の甘さも感じた。そして、実際に見に行って、この問題を考えてみたいという気持ちが強くなった。観光業に従事している飼育ゾウたちの生活は、彼らにとって「らしい」生活であるのだろうか。



※事前勉強で取材させていただいた皆様。改めてありがとうございました。

・広島大学大学院国際協力研究科博士課程後期 大石友子さん

・タイ住みます芸人 あっぱれコイズミさん

・桂木聖さん

・PHD協会 坂西さん、佐藤りささん、出羽あきこさん

・恩賜上野動物園教育普及課のみなさん



[3/5]へ続く

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