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【あじさいプロジェクト】大熊町聞き書き活動16 末永精一さん

2020年1月19日、福島県いわき市にお住まいの末永精一さんにお話を伺いました。末永さんは震災前、稲作を中心とした農業と、熊川で鮭の稚魚を放流し、遡上してきたものを捕獲する栽培漁業を行われていました。また、大熊町議会議員を6期、議長を1期務め、地域の漁業組合長としても20年間活躍されていました。そんな末永さんに、震災当時の状況や漁業組合の様子、鮭の放流についてお話ししていただきました。



● 熊川での鮭の稚魚の放流


卵を取って、精子をかけて、受精した鮭を、大体10グラムまで育てて放流するんです。メスで上がってきた鮭は、水槽に入れて、オスはバラで(トラックに載せて運ぶ)。メスは川の水を飲まないと産卵しないんですよね。


(放流した稚魚が)生まれた川に戻ってくるということは、間違いない。卵から生まれて最初に飲んだ水が、母水と言って覚えているらしい。いくつ川があっても自分の川がわかる。(放流して戻ってくるのは)一般には4年だけれど、3年、5年、6年でも戻ってくる。


(鮭の稚魚の放流を行っていた河川は)福島県に10河川あるけれど、(震災前は)木戸川*と泉田川*が1,000万毎年放流して、三番目が熊川で600万放流していたんです。1,000匹に1匹か、いい時で3匹が戻ってくる計算なんだけれど。

*木戸川=いわき市と、双葉郡の川内村を通り、楢葉町から太平洋に注ぐ河川

*泉田川=双葉郡浪江町から太平洋に注ぐ河川

<鮭の稚魚の放流の様子>



● 震災当時の状況


(震災があった3月11日は)県内各河川の漁業組合長が集まって、会長会をやっていたんです。県からも二人来て。1時間前に終わって解散したから、私は車で走っていて、なんだろうと思って止まったら地震で。副組合長は、停電になって稚魚が死んでしまうから、みんな放流したらしい。放流できる時期だったから。すぐに津波が来て、逃げるのがやっとだった。いやいや、あんなことは…。


(会長会をしていた漁業組合の)事務所は何もない。土台しか残っていない。記念碑も建てたけれど、記念碑まで流されて。(そのあたりは)ほとんど家はないな。



● 避難生活の中での様々な困難


津波が来た次の日は避難しないとならないから、バスが来るからということで、みんな集結していて、バスで避難したんだけれど、二日か三日だと考えて着の身着のままで。バスが来たら、年寄が先に乗れというから、若い人と年寄は別になって、あれはまいったな。家族が一緒でなく。こんなに長いとは思わなかったものな。


大熊から、最初は、(田村市)船引(ふねひき)の体育館に最初に行って一晩だったか、二晩だったかな。今度はデンソー*の建てたばかりで、まだ出来上がっていないところにシートを敷いて、毛布をもらって、約1ヶ月いたかな。デンソーには何千人かな。大熊だけでないから。風呂は入れないし、便所も詰まって使えなかった。

*当時建設中であった「デンソー福島」の工場(田村市船引町)


それから今度は、喜多方の旅館「俵屋」に世話になって、あと(会津)若松に4年いたかな。会津は雪が多くて、それでいわきの方に一軒家を買って私と妻と真ん中の孫の三人で暮らしています。

<聞き書きの様子 (2020年1月)>



● 漁業組合長としてのご尽力


組合員は25名で今も同じ。世代交代した人は若いね。うちもそろそろ年だから息子と交代しようと思っている。これから組合員も増やさないといけないので、できれば入ってもらいたいと話してはいるけれど。


前の組合長の時に、県の指導で銀鮭の銀系の卵を品種改良するということで、熊川の鮭を分けてやって、4年間やったんだけれど、それで落ちてしまって(うまくいかなくて)。その時は銀系の卵で受精したやつを県でよこしたけれど、4年目には、普通だと遡上するのが11月なのに9月中に上って来て(出荷することが出来なかった)。それでその後は在来種というか、元からいた鮭を(放流していた)。


(現在でも)放流は毎年やっています。今は(本格的には)とっていないけど、いくつかとって、放射能があるかどうか調べたり。鮭はほとんど放射能は大丈夫なんですよね。どこで測っても。

<お話をしてくださる末永さん(写真中央) (2020年1月)>

 

♦編集後記

町議会議員や漁業組合長、鮭の栽培漁業、農家など様々な分野で活躍なさっていた末永さんだからこそ語れるお話だと実感しました。震災時のお話では、「まさか」の連続で、自分も他人事ではないなと思い、防災の重要性を痛感しました。また、漁業組合のお話では、やはり世代交代や若者不足などが問題に上がっていますが、それとは関係なく楽しそうに仕事をなさっている姿が印象的でした。問題があるからと言って、周囲が悲観的に決めつけすぎている側面があるのかもしれないと考えさせられました。

【編集:青野りさ】



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